アレルギー性鼻炎と漢方

アレルギー性鼻炎、苦しいですよね。せっかくの良い天気も美しく咲き乱れる花々も楽しむ気持ちになれないものです。

透明な鼻水がたくさん出て涙やくしゃみがよく出るタイプの人には、からだを温めて余分な水分を追い出す作用のある麻黄附子細辛湯という漢方薬がよく効きます。漢方薬は効き目が出るのに時間がかかると思っていらっしゃる方も多いと思いますが、日本の漢方医、山本巌先生(-2001)はお医者さん相手の講演にこの漢方薬を持っていって、「アレルギー性鼻炎の方はいらっしゃいますか?」とたずね、粉末をその場で飲んでもらい、くしゃみは5分、鼻が痒い、鼻水が出るなどの症状は15分くらいで止まるのを観察されたそうです。漢方が早く効くことだってあるんです。

坂東正造 漢方治療44の鉄則(2006) メディカルユーコン

エビデンスベーストメディスンと漢方

目の前の患者さんに最も効果的な治療法を選ぶ際に、科学的な方法によって得られた証拠(エビデンス)を根拠に選ぶことをエビデンスベーストメディスン(EBM)といいます。日本ではEBMが漢方の分野にも取り入れられるようになって来ました。漢方の処方はもともと古くからの言い伝えにしたがって行われてきましたが、それらの言い伝えの正確さを確認することと、西洋医学の教育を受けてきた医師でも漢方薬が効果的に使えるようにすることを目的としたものです。例えば80人の片頭痛患者に呉茱茰湯という片頭痛に最もよく使われる漢方薬を服用してもらい、効いた人57人と効かなかった人23人に分類しました。効いた人たちが共通して持っていた症状や医学的所見は何だったのか、を解析したところ「他覚的足の冷え」「胃内停水」「わき腹の痛み」「へその付近の圧痛」「腹部動悸」という5つの所見がある人たちに呉茱茰湯が有効だったことがとわかりました。古くからの言い伝えにあった「吐き気」はそれほど重要でないことがわかりました(1)。このように科学的な方法を使うと、流派の壁を越えて公平にどの漢方薬がどんな人に効くのか評価することができるので、今後どんどん進めていってほしい研究のひとつであると私は思います。

(1)日東医誌 Vol.58 No.6 1099-1105 (2007)

便秘からくる頭痛

便秘を放っておくと頭痛が起こることがあります。便秘には従来痙攣型と弛緩型の2つのタイプがあるとされてきましたが、最近札幌の時計台記念病院の宇野良治先生により、大部分の難治性便秘はじつは痙攣と弛緩が共存する混合型であることがわかってきました。また昭和の漢方の名医、大塚敬節先生のご子息、大塚恭男先生はそれら3タイプの便秘に対応する漢方を独自に考案されました。

痙攣型はころころ便または鉛筆のような細い便、下痢便秘を繰り返す、腹痛、残便感がある、などを特徴とし、腸の筋肉の緊張を緩める作用のある小建中湯という漢方薬が有効です。弛緩型は硬く太い便、便意を感じない、お腹が張る、腹痛はない、などを特徴とし、腸のぜん動運動を促進する働きのある大建中湯という漢方薬が有効です。混合型は痙攣型と弛緩型の両方の特徴をあわせもつので、小建中湯と大建中湯を混ぜた中建中湯が有効であることが示されました。

下剤の中にはよく飲みつづけるとだんだん量を増やさないと効かなくなってくるものがあり、特に大黄やセンナの入った下剤では長期間の使用を控える注意が必要となりますが、小建中湯、大建中湯の中にはそれらの成分が入っていないので使いやすいといえます。

雨の日の頭痛

雨続きの週がやっと終わり、今週はいいお天気ですね!雨降りの日に頭痛がする、雨が降る直前に頭痛が始まるという人がよくいます。日本の漢方研究者たちによるとこういうタイプの頭痛の人に五苓散をのんでもらうと9割以上の人に有効だったそうです(1)。五苓散は中医学ではおもに「水毒」の排出に用いられる方剤ですが、漢方ではその応用範囲は非常に広く、子供の急性の下痢嘔吐から脳浮腫、三叉神経痛、帯状疱疹、脳髄液減少による頭痛にいたるまでさまざまな症状の改善に効果をあげています。雨の日に頭が痛くなる方、賀川漢方クリニックにご相談ください。

(1) 漢方の臨床 52巻 12号 (2005)

目に効く漢方

苓桂術甘湯は中医学の教科書によると胸の閉塞感、痰が出やすい、めまいなどの症状に効く方剤とされています。しかし日本漢方の基礎を築いた吉益東洞(よしますとうどう、1702-1773)とその弟子たちはこの方剤を水分代謝の異常によって起こる眼病に用いてよい結果を得ています。吉益東洞の治験録には次のような治験例があります。ある僧が目が悪いけれども見えないわけではない。ただ物を長く見ていると大小無数の四角いものや丸いものが現れ、それが消えると錐で目を刺されるような激しい痛みが起こる。この症状が3年も続いている。といって治療を求めてきた。吉益先生が診察すると上気して筋肉の痙攣がある。そこで苓桂術甘湯に川芎と大黄を加えたものを与えると数十日で治った。ということです。現代の漢方の名医の一人である藤平健先生は慢性軸性視神経炎の患者49人にこの方剤を使用し、95.5%に視力の好転が見られたと報告しています(1)

(1) 藤平健 「日本眼科学会雑誌」55巻4号

三叉神経痛に五苓散

三叉神経痛の治療に五苓散を初めて使ったのは昭和の漢方の名医、大塚敬節先生(1900-1970)であるといわれている。

隣家の女中さんが顔面の左半分がひどく痛むと言って来院した。脈は浮小で、三叉神経の第1枝に沿って痛む。葛根湯を2日分与えたが、効がない。香芎湯を2日分与えたが、効がない。ところがその頃から、強い口渇を訴えるようになった。小便もとても少なく1日に1-2回だという。そこで口渇と尿の減少と頭痛を目標にして五苓散を与えた。2日分でほとんど痛みがとれ、4日分で全治した。

症候による漢方治療の実際 第5版 大塚敬節著 南山堂 p。31 より抜粋

長年の片頭痛が呉茱茰湯で治癒ー1

42歳の女性。色白で中肉中背、若い時から頭痛もちで最近は特にひどくなり、月経の後に特に悪い。頻度は一月に1-2回。頭痛が右側に起こる時は特に症状が激しく嘔吐を伴う。2日間は何も食べられない。大便は一日一行、月経も順調、腹診は心下やや痞硬。呉茱茰湯を処方され飲むと首も凝らず頭痛も起こさなくなった。3週間飲んで多年の片頭痛を絶つことができた。

症候による漢方治療の実際 第5版 大塚敬節著 南山堂 p。24-25 より抜粋